台湾のIT産業
米中対立の主戦場である半導体産業。半導体生産のキープレーヤーである台湾は、米中対立を踏まえ、生産設備や材料といったサプライチェーンの上流や、次世代半導体の開発を強化し、台湾の競争力を一層高めようとしている。2020年9月に打ち出した2021年~2025年までの中期計画である「オングストローム(Å)世代半導体計画」(注1)を基に、台湾の半導体政策と現状について紹介する。

半導体受託生産の世界シェア7割占める台湾
台湾企業は、半導体生産における世界のトッププレーヤーだ。台湾経済部によると、2020年時点で台湾のファウンドリー(半導体の受託生産)は世界シェアの7割を占め、世界1位の台湾積体電路製造(TSMC)だけでシェア50%を超える。特に先端ロジック半導体(注2)の生産で世界をリードしており、米国半導体工業会(SIA)によると、線幅10ナノメートル(nm、1nm=10億分の1メートル)以下の製造工場の92%が台湾、8%が韓国に立地している。
米国は、半導体の生産拠点が台湾に集中するのはサプライチェーン上のリスクが高いとして、半導体産業支援に500億ドルの拠出を決めたほか、台湾のファウンドリーの工場誘致を進めている。TSMCは、120億ドルを投資しアリゾナ州に最先端である5nmの工場を建設することを決め、2020年12月に台湾経済部が投資を許可した。2024年に生産開始予定とされる。
TSMCの創業者モリス・チャン氏は4月に台北市で行った講演で、米国の半導体補助金について、「補助金は短期的で、長期的に米国のコスト高を補うのは難しい。さらに、米国では研究開発や金融業が人気で製造業は不人気だ。また、台湾には高速鉄道があり、何千人ものエンジニアが1日で新竹、台中、台南を行き来できる。米国ではこれは不可能」と、米国の課題を指摘した。
台湾経済部は、米国での工場建設はTSMCのグローバル戦略の一環かつ顧客との関係を踏まえたもので、前向きにとらえているとのコメントを発表している。経済部によれば、TSMCの生産能力のうち、台湾での生産が90%を占めており、既に2020年には台湾の工場において5nmの半導体の量産を世界で初めて開始しているほか、2022年には3nmの量産を開始する予定であり、半導体生産における台湾の優位性に変わりはないとしている。
サプライチェーンの上流と次世代半導体の強化目指すÅ世代半導体計画
台湾企業は半導体生産では世界をリードしているが、サプライチェーン全体を見ると、上流の生産設備や材料については多くを輸入に頼っている。
台湾当局は米中対立による設備や材料に対する輸出制限を踏まえ、中長期的に台湾の半導体産業の競争力を維持するためには、上流分野も台湾での開発・生産が急務と捉えている。サプライチェーン強化の方法は、台湾企業への補助金と外資企業の誘致だ。
半導体産業に対してはこれまでも、2018年~2021年を対象期間として、科技部を主体として半導体の技術強化を目指す「半導体射月(ムーンショット)計画」(注3)を実行していたが、2021年~2025年を対象に、経済部、科技部の双方で「Å世代半導体計画」の予算を計上した。経済部の「Å世代半導体-先端技術と産業チェーン自主発展計画PDFファイル(3.84MB)」には37億台湾元(約148億円、1台湾元=約4円)、科技部の「Å世代半導体-未来の半導体と量子技術開発計画PDFファイル(2.06MB)」は19億台湾元の予算を計上し、経済部の「先端技術と産業チェーン自主発展計画」は半導体産業全体に対する政策を網羅している。この計画には、4項目〔(1)生産設備、(2)基幹材料、(3)Å世代半導体の開発、(4)人材育成〕について、技術的な要件を含めて、以下のような具体的な目標を記載している 。→ウイキペディアによる


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